クラフトビールおすすめアプリ

生活習慣等に関する質問に数問答えると、KIRINのクラフトビールがおすすめされます。

【WBS(ワールドビジネスサテライト)】

http://www.tv-tokyo.co.jp/mv/wbs/newsl/post_166151/%E3%80%80

【TBSニュース】

その他のプレス


概要

産総研AIコンソーシアムという枠組みの中で、産総研と参加企業が共同で実施しているプロジェクトです。 今回は、KIRINさんが以前収集された嗜好アンケートデータを基にして、解析結果を推薦アプリに乗せ、実店舗で実験しています。

  • 場所:キリンシティプラス池袋WACCA, キリンシティプラス横浜ベイクォーター
  • 実験期間:2018年11月8日〜2018年12月16日

中身のベースは、前年の「企業家タイプ診断」と同じです。 しかし、前年と比べると、推薦結果に応じて店舗で実際にビールを提供するという違いもありますが、 UI/UX等をKIRINさんのほうでかなり手を加えられたので、見栄えが全然違います…!

質問に答えると、KIRINのクラフトビールが1つおすすめされます。 (実際におすすめされるのは、「ブルックリン ラガー」「JAZZBERRY」「Daydream」「496」の4種類です。)


裏で何をしているのか

全体のフローは下の図のようなかんじです。 統計解析パート以外、やっていることは単純です。 後述しますが、ここでは「おすすめの精度を高めるように機械学習する」わけではありません

1. 嗜好アンケートデータ

まず、事前にKIRINさんが収集された嗜好アンケートデータがあります1。 各回答者には、100問以上の生活習慣等についての質問に答えるとともに、好きなクラフトビールを選択してもらっています。

2. 統計解析

嗜好アンケートデータで、特定の回答者群が生活習慣の質問について同じような回答をしているとすれば、その生活習慣のグループはライフスタイルを表していると解釈でき、対応する回答者群は、そのライフスタイルを持っている人々と考えられます。 回答者と回答文(生活習慣)は、関係データ(グラフ)になっているので、グラフクラスタリングによってライフスタイルとそれにマッチする回答者群を推論します。ライフスタイルの数もデータに基づいて推定します。

ライフスタイルと回答者群のマッチングができたら、その回答者群が最も好んでいるクラフトビールを紐付け、「ライフスタイルに対応するクラフトビール」とします。

3. リコメンド サービス

上記のデータをベースとして、ビールのリコメンドを行います。 お店でお客さんが生活習慣についてのいくつかの質問に答えると、そのお客さんに当てはまる確率が最も高いライフスタイルを、上記の解析結果に基づいて計算します。 そして、そのライフスタイルに紐付けられたクラフトビールがおすすめされます2

おすすめをするのと同時に、お客さんからのデータが集まってきます。 これらのデータを含めて再度上記のクラスタリング解析をする、というサイクルが回せます。


「おすすめの精度を高めるように機械学習する」わけではありません

予測誤差を最小化するモデルを組めばよい?

リコメンド アプリと呼ぶのであれば、ライフスタイルのことなど考えず、「客が好みそうなビールを当てられるように、手持ちのデータから予測モデルをひたすら学習すれば良いのでは?」と思われるかもしれません。 実際、そういうこともできます。 理由はともあれ正確に予測できることに価値がある場合(囲碁で”次に打たれる手を予測する”など)は、それでいいのですが、ビールを”正確”に予測することを追求するのは、ちょっと微妙です。よくある話ですが、予測モデルを学習しても、多くの場合「なぜ当たるのか」は理解できるようにならないので、運営側としても見返りがあまりありません。

そもそも「好きなビール」というのは主観なので、確固たる傾向などあるのか怪しいものです。

さらに、おすすめされた結果を見たところで、「これはワシが本当に好きなビールじゃない!」とはあまりならないので(そういう人にはリコメンドは不要ですね)、おすすめの”正解”とは何なのかもはっきりしたものではないのです。

ライフスタイルとの連関に基づいておすすめをしよう

ではおすすめをするということは、まったくナンセンスなのでしょうか。 逆に人々の好みがまったくランダムであるというのも若干信じ難いので、なんらかの傾向はあるかもしれません。

質問項目は、主に生活習慣についての質問に絞っています。回答者についてのありとあらゆる特徴を聞いているわけではないので、そもそもライフスタイルと好みのビールが関連していることを前提としています。 なので、ライフスタイルとビールの好みに連関が見られれば、おおまかなおすすめとしては良いのではないか、というスタンスです。 完全な理解には程遠いですが2、人々のビールの好みについての理解は進みます3

ただ、お店のアプリで「あなたのライフスタイルにはビールとの連関がないので、特におすすめはありません」とするのは、お客さんへのサービスとしては問題ありまくりなので、連関があるかないかに関わらず、おすすめは出ます。(アプリはサービスであって、科学実験の測定器ではないのです!)


実施・解析手法

  • Data collection (base App):ShikiSci_yellow
  • Framework:Stochastic blockmodelによるベイズ推論
  • Algorithm: nonparametric MCMC [Newman&Reinert, Phys.Rev.Lett. (2016)]
  • Model selection: Palette diagram [C. Noguchi & T. Kawamoto, in preparation.]

  1. 企業家タイプ診断」のときは、ここが伝記漫画の資料だったわけです。 

  2. ライフスタイルのパターン数は、回答データに基づいて決定していて、クラフトビールのバラエティと一致しているとは限りません。また、ライフスタイルごとに異なるクラフトビールが割り当てられているとも限りません。  2

  3. もちろん、ライフスタイルがビールの好みを測る最適な基準である保証はどこにもないですし、因果関係はぜんぜん別の事実にあるかもしれません。